白黒部屋のねこたまご

気ままに花咲く思索の庭園。物語や理系関連に対し益体もないことを呟くブログ。

叫びたいのなら叫び続けるしかない 『はつゆきさくら』小坂井綾編考察①

 

 

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よし、のった(殴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*ネタバレ注意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ後、公式推薦順でいけば一番はじめに攻略することになるヒロイン(厳密にはもう一個段階を踏む。以後、それを桜BADルートと呼ぶことにする)。

そんな大役を与えられただけに彼女のルートはとても濃く、このルートで描かれていることは主人公を理解する上でもっとも重要な内容になると思う。

 

本編の一年前。どうして初雪は”復讐”をかかげ、ゴーストチャイルドになったのか。

 

そしてその時のヒロインとしてなぜ小坂井綾が選ばれたのか。

 

今回は、そのあたりを考察の軸として見ていきたい。

しかしまあ、小坂井綾の人間性はいまだに理解できない部分が多く、その正体も言動もこれが答えだと言える解がない。それくらい、色んなものが集まってできた渾然一体なミステリアスヒロイン。

ある意味でいちばん人間的なのかもしれないね。

 

 

でも、そのなかでひとつ、確かに言えることがある。

 

彼女は、初雪の叫びを肯定できる唯一のヒロインなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初雪が真意に抱えていた願い

 

 このルートのはじまりは、ランが討たれてホテルを追い出された初雪が放浪の身となる回想からはじまる。

突然の出来事に気持ちがついていかないながらも、その日その日を漫然と生きていくうちに、初雪は状況を整理し始め、次第に様々な疑問を抱いていく。

 

どうしてランが討たれたのか。

そもそも、どうして自分はあのホテルにいたのか。

どうして、自分はひとりぼっちなのか…

 

そこには、本編では描かれることのなかった、ゴーストチャイルドになっていない”人間”としての初雪が垣間見えるのだ。

まずはそこを見ていこう。

 

 

 

・ランが討たれてから

 

結局のところ、俺は寂しかった

家に帰れず、こんなところに住み着いてしまっている境遇が

そのことを、相談する相手もなく…そして、叱ってくれる相手もいないことが

…ランに会いたかった

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

 

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ゴーストたちに追い払われて10か月。初雪は街をさまよい続け、ひとりぼっちで生きてきた。家に戻りたくても戻れない、ランにも会えない。

何故いきなりランが目の前から消えたのか、いきなり現れたゴーストたちはなんなのか、ゴーストの王様とはいったい…?

幻と疑うような出来事の連続に困惑し動けなくなるのは無理もない。しかし10か月ともなると、だいぶ長い間逡巡していることになる。ランも、安息の場も、もう完全に消えてしまったことは時間の流れがいやがおうにも教えている。

 

それなのに、彼は必死になって探そうともしない。

なによりすでに諦めてしまっている。

 

この頃はまだ王として目覚めておらず、復讐心もない、何が悪くてそうでないのかと考えるだけの弱い人間だ。裏を返せばこれが初雪の本性ということ。

桜BADルートのラストでも示唆していた通り、結局彼にはもとより復讐心なんてものはない。

ただ寂しくて、安息の場所が返ってきてほしいと願うばかりで、行動することも叫ぶことすらできないひよっこなのだ。

そんな弱い心が、初雪をより苦しめる。

 

ゴーストの王。それは、妙に俺の胸を打つ惹句だった。

この世界に受け入れられない理由を与えられたようで、少しだけ、救われるんだ。

俺はゴーストだから、受け入れられない。

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

人はとかくして物事に理由を欲しがる。なにより理不尽は嫌いだから、とってつけたような理由を考えて、強引に自分を納得させようとする。仕方のないことだと思い込む。人間って、常に理不尽から抗っているように見えて、その抗い方に道理がなっていない、頭の悪い生き物。

本編で強く見せていた初雪も、素はただの弱っちい人間なんだよ。

 

けど、本当にそれだけか?

俺がこの世界に受け入れられないのは…

何かを呪っているからではないか。

人を呪わば穴二つという。

誰が誰を呪って、その連鎖は始まったのだろう。

悪いのは誰だ?

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

この、誰かを呪うということに特化したのがいわばナイトメアだ。

彼女は理由よりも憎悪が強かったからすぐさま呪いに突っ走ったが、対して初雪はどうか。

彼はこうして道理を求めるばかりで一向に憎悪にも復讐にも走らない。もちろん、前を向くこともできない。

理由を求める心理としては、最終的に納得が欲しいのだろう。仕方がないことだ、と思いたいんだろう。それはゴーストになり切らない強さであるともいえるし、自虐を張り巡らせて自分を苦しめているだけの弱さであるとも言える。

でもどちらにしたって、彼はランや安息の場を失っても放浪するだけ。

しかし、逆に言えばひとつのきっかけさえあれば、どちらにも簡単に転べてしまうのだ。呪いを孕むゴーストにも、前を向く生者にも。

 

 

 

そう、この時のもはや初雪は生者でも死者でもない、互いの境界線上を反復横飛びしている、生けるゾンビのようなものなのだ。

 

ランを取り戻すためによくわからない憎悪に乗っかるか?

ランの言いつけを守って立派に生きるか?

 

その生死を分かつ最大の要因は、ランのいう”立派な人間”を目指せるかどうかにある。

では立派とは何なのか?

まだ確実な答えにはたどり着けないが、この時点でひとつわかることは、以下のセリフからある。

 

どちらが憎いとかじゃない

町が、歴史が、あらゆる呪いを憎む

大人たちは…その争いで

誰も子供を、巻き込んではいけない

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

父親やゴーストの復讐心を煽る囁きが、本来彼にはなかった憎悪を生じさせる一方で、彼には彼なりの大事な信条があったのだ。

これが一番活きるのがシロクマ編なのでここでは割愛するが、ガキを巻き込んではいけないというその矜持こそ、初雪が放つ唯一の叫びなのだ。

自分が置かれている状況は、大人たちに良いように利用された末にあるからこそ、叫ぶ権利が彼にはある。そんな叫びが歯止めとなって、彼をゴーストの王にさせず生死の境界線をうろうろさせていたのだ。

 

 

そんな曖昧模糊な初雪の意志を大きく揺るがすふたりに、この後出会うことになる。

 

 

 

 

 

 ・アキラとの出会い

 

思えば初雪が放浪し始めてから初めてまともに触れ合った人ってアキラだ。

そしてそいつは、初雪に“復讐という逃げ道”を教えてくれる。

 

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アキラと初雪は似た境遇なだけあって気心知れた関係になっているのだろうけど、決して身を寄せ合っているわけではないんだよね。どちらも孤独。いうなれば、お互いのその孤独が少し擦れているだけに過ぎない。

生前のアキラも初雪と同じで、一番つらい時期に寄り添える肩がなく、それでも助けてくれなんて言えない、凍えるほどの孤独に苦しんでいた。今のアキラはゴーストとなり、ただ生きていたいという願いを復讐に任せることで仮初の安定を得ているから、こうして河野を心配(してるのかな?)できているのだろう。

 

淋しい…。このセリフは、自分にも向けられているようにも見える。

 

そう、こいつだって、焦がれるほど復讐心に溺れているわけではない。復讐の対称の顔すら曖昧なほどのものなのだ。

だから結局は、えらくあっさりした終わり方になる。

 

 

「あんまり、意味がなかったのかもしれないな」

「でもそういうもんだろ。復讐なんてのは」

 

はつゆきさくら アキラ

 

生死の境界線でさまよっていた初雪が見た、ひとりの男の復讐というのはなんともすっきりしないものだった。

こんなはずじゃなかったと。欲しかったのは、こんなものではなかったと。

結局、逃げるようにして走った復讐は、自分の身を焦がすだけの結果にしかつながらないのだろう。

 

良いことなんてありはしない。会いたい人に会えるわけでもない。ただ自分の身を焦がすだけ。それが復讐の果てにあるものだ。

 

初雪はそんな当たり前な真理を、アキラを介して知ることになる。しかし、ここから初雪が『そうですか、じゃあ復讐なんかやめて真っ当に生きます』なんて簡単にはいかない。

 

自分の身を焦がすことが復讐――という、いわばゴーストの本質に気づき始めてしまっていたのだ。

 

 

 

 

・覚醒の予兆

 

恐れと侮蔑の混じった目で自分を見るクラスメート達の顔が浮かぶ

なぜか付きまとっていた女の顔。今朝の男の顔が浮かぶ

あの剣道場も、これ以上、寝床には使えないか

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

アキラと別れ、綾と妻とのひと悶着の後の波乱。

 

そもそも初雪が剣道場なんていう、学内にあって人目に付きやすい場所を寝床に使っていたのは、利便性があったからというだけではない。

学内だからこそ、誰かが見てくれるだろうと思ったまでだ。これが初雪自身が後述する、甘い考えだ。

そんな甘い考えをひそかに持てるほど、この時点ではまだ現実には絶望しきっていないことがうかがえる。

執拗に付きまとう綾、暴力を振るってきた妻、恨みや煩わしさをまとわずにその顔が浮かぶ。

方向性は違えど、なんだかんだで同じ学園の生徒で初めてコミュニケーションをとった二人なのだ。

 

しかし居場所が失われたのは事実。

あの日から日に日に肥大化していく虚無感は、ついにゴーストたちに頼ることでしか埋められないほど、限界に達していたのかもしれない。

ついぞカツアゲの行為にまで走るも、脳裏に浮かぶランの顔。初雪はそれを胸糞悪い光景と称し、綾からも逃げてしまう。

 

「ちくしょうめ。どいつもこいつもっ」

「全部殺してやる。殺してやる」

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

ひとたび倫理から背いた行為に乗ってしまえば、そこからは憎悪だけしか生まれない。おそらくこれが、初雪がはじめて心から抱いた憎悪。ゴーストにそそのかされ、略奪を掲げた瞬間だ。

アキラを経て復讐はただ身を焦がすだけで意味はないと気づいていながらも、理屈を超えた価値を初雪は感じ始めようとしている。

 

 

…よく考えてみれば、虚無感で一杯の初雪を復讐の道へ走らせることなど簡単なのだ。現に今も、ゴーストの囁きで街に憎しみを抱こうとしている。

だとしたら、ランがわざわざ綾を使う意味などないのでは、と思ってしまう。

世話係は確かにほしい。でも下手に綾と深く交われば、復讐に不要な未練が生まれてしまう。

 

これはもしかしたら、ランなりの、一種の賭けなのかもしれない。

 

 

 

 

・綾との一騎打ち

 

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 本ルートの最重要人物たる綾との遭遇のきっかけも、またなんとも濁されているものだ。 

 作中でもほのめかされているように、もしかしたらこの時の綾はランをはじめとした多大なゴーストの干渉を受けてしまっているのかもしれない。

いわば ”(純粋な)生者ではない”。 目的意識もどこか曖昧で、自分がなぜこうしているのかもわからない、そんなある意味ゴーストに生かされているような存在だからこそ、 初雪と深く接触することができたのかもしれない。

ま、綾については次回辺りにでも。

 

 

 

 

「1つ聞きたい。何故俺に構う?」

「強いて言うなら…目障りだからかな」

 

はつゆきさくら 河野初雪、小坂井綾

 

何故構うのか。

初雪との交友のきっかけとなる部分だが、今でも納得のいく理由が見つかっていない。

自分なりに考えてみると、この「目障り」というセリフは初雪だけでなく、自分にも向けて言っているような気がする。

初雪を目障りだと言ったのは、初雪のその言動に嫌いな自分(この時点ではおそらく、死を肯定しながらのうのうと生きる不格好さ)と似た部分があったから。闇を見ると自分の闇も露呈されてしまうように、綾にとってこの初雪の存在は本当に目障りだったのだろう。そのうえで執拗に構うのは初雪がアキラと似ていたからか。

つまるところ結局は、綾自身の後悔やわだかまりを晴らすだけに話しかけたってところだろう…と私は解釈している。

 

 

 

「お前は一体、なんなんだ。俺に構うな」

 

「世の中にはいくらでも口開けて人の親切あてにしてる人間が腐るほど腐ってるだろうがよ!」

「君が、それでしょ」

 

「孤独なくせして孤独になり切れなくて、助けてほしいのに助けてくれって言えない」

「いっそ消えちゃえばいいのに。誰もいないところで寂しがってなよ。一人で寂しがってなよ」

「寂しいってそういうことでしょ。君は単に寂しくなるのが怖くてもがいているんでしょ」

「滑稽なんだよ。傍から見ると」

 

はつゆきさくら 河野初雪、小坂井綾

 

 

考察するまでもなく、現状態の初雪を表したセリフ。

ランを失ってから剣道場や色々なところを寝泊まりしていって、たまにのうのうと学園に現れては不機嫌そうに去る。こんな行動の背景には、やはりどこかで『誰かに見てもらいたい』という考えがあったからだ。

しかし変な意地があるのか、本当のことを話しても誰も信じてもらえないからか、自分はゴーストの王だから孤独でいいんだともったい付けた理由で孤独を選び続け、それでもゴーストの王にもなりきれない。

生者として人の親切にも頼れず、ゴーストにも染まれない。そんな胡乱な状態こそが、綾の言う”滑稽”という言葉に込められている。

 

…それは初雪自身も気付いていたはずだ。ただ、救済の手もなければそう罵ってくれる相手もいなかったから、閉じこもるしか選択肢はなかっただけで。

どこかでそんな弱い自分に気づいていながら、結局目を反らしたまま甘んじていた初雪に、はじめて投げかけられた正論だった。

 

 

前述したように自分で自分の像が把握できていない綾からしてみれば、アキラを想起させてしまうとは別に、初雪は無意識に感じ取った自分の鏡でもあった。

諦めきっている綾からすれば下手にもがく彼は余計に滑稽に映るのだろう。

 

 

俺は消えるべきだった

誰とも口をきかず、呪うような表情でクラスメートに煙たがられるくらいなら、さっさといなくなるべきだった

それでもこんな隅っこに止まり続けたのは……ランとの約束のためだけじゃない

甘ったれた、未練のせいだった

結局俺も、何もわかっていないじゃないか

そしてもう、そういうことにあがくことにも、疲れてしまった

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

実は綾よりまだ救いがあるとわかるこの一節。

初雪は周りに敬遠の目を向けてでも、どこかで助けを求めていた。それは、まだ立派になりたい、再起したいと思う表れと、寂寥感の重ね合わせから生じた想い。彼も彼で必死だったのだ。

しかし初めて自分に向けられたのは、そんな自分の罵倒だった。それも的確だからこそ、彼は足掻くことをやめてしまう。

 

一方でこれは、これまでの停滞した自分へのリセットの機会。

ここでランとの約束も薄れ始め、本人のいう甘ったれた考えが昇華されることになる。

ここから先は初雪のセカイだ。ゴーストに転ぶか、まだランとの約束に固執するか、その選択が、このルートにおける初雪の役となる。

 

 

…というか、なぜ“甘ったれた未練”なのだろう?

どうしようもない重荷を背負って、誰かに助けてほしい、救いの手が欲しいというその気持ちを、彼はそう代弁した。

綾の言うように、それでもひとりでもがき続けている方が無様で滑稽であると言ってもいい。助けてほしいというのが、そこまで甘ったれなのか?

この時から既に、初雪はゴーストの王への兆候があったのだと言える。業の重さに叫びたいのなら、現世に留まらずゴーストになって叫ぶべきだったと。しかしこの時の初雪にはまだその覚悟が足りなかった。

だから綾の叱咤で今の愚かさを見つめ直した。なかば死んでいながら、心の底では生に焦がれている自分の覚悟の弱さを。

…甘ったれた、というのは覚悟の無さから生まれた自嘲の言葉だったのだろうか。

 

 

 

 

・小坂井綾の悩み

 

憑依で済ませていいのかわからないくらいに、この子には芯がなく、確固とした生き方がない。それでももともとは頼れる生徒会長、あまたの男を恋に落とした魅惑の女性。

アキラの死がここまでの虚無を生んだとなれば、実は初雪のことをどうこう言える立場ではない。いや、本質的に同じだからこそ、初雪を見ると自分の惨めさも浮き彫りになって、結果「目障り」なんて言葉が出てきたのだろう。

 

「私は卒業、しない方が良いんじゃないかって思ってる」

「卒業が迫るにしたがって、ぼんやりと考えるようになったんだ。このまま卒業してもいいのかなって」

「罪滅ぼしとかじゃなくて。彼をどこかに置き去りしてしまうような気がしてね」

 

はつゆきさくら 小坂井綾

 

 

不祥事を起こして退学を食らったアキラに対してはドライだったという過去話。

元々の綾って、思う以上にサバサバしてる人だったんだろう。慕われていたというのも、こういった凛々しい態度が評価されてのことかもしれない。

実の弟に対して心配もしていなかったと言うが……いや、兄弟仲がそれほど良くなければこんなものだろうか。

でも死んだとなれば別。死者はもう口を利かないから、残された側はその死をきっかけに妄想だけが膨らんで、憑りつかれたように立ち止まってしまう。彼を気にしていなかった分だけ、尚更。

いや、気にしてなかったはずがない。曲がりなりにも実の弟で、後の綾のセリフから、不祥事を起こした後にも町で会っていて、その時何もしてやれなかったという後悔も生まれているのだ。

彼が生きていたうちは、さほど自分の私生活に影響を及ぼすまでではなかったにしても、どこかしら心残りというものはあったはずだ。

 

だからこうして、立ち止まるくらいに憑りつかれている。

 

 

「まあ実際。そんなことは卒業しないとわからないんだろうけどな」

「結局、今過ごしている時間がどんな時間かなんて、その時はわからない」

「過ぎ去って振り返った時こそ、見えてくるものがあるんじゃないか」

「だから、とにかくやり切ってみるしかないんだと思うけどな」

「自分と、懐かしい人たちに報いるために」

 

はつゆきさくら 河野初雪

 

周回プレイでびっくりしたのがここ。これはランの受け売りの言葉だが、まさか初雪の口から出ていたシーンがあったことに驚きだった。

逆に言えば、こうして人に話すくらいに心に染みわたっている警句からこそ、彼は未だに生死の淵から踏み外さずに済んでいるとも言える。

 

このセリフは物語の核心をつく重要なセリフのようで、共通部においてこの一連のセリフを綾の方からも発している。

ランから受け持った初雪が発端のこのセリフ、覚醒前の初雪自身は区切りを超えたことがないからまだ響かないものの、卒業生の綾はこの作品においては唯一の区切りを越えた経験者だ。卒業後の綾本人は、ランの教えに倣って生きる覚醒前の初雪をそのまま表しているように思える。ふらふらと復讐心に身を投げてしまうのも、再起の可能性があるのもすべてひっくるめて。

 

しかし、綾もまた孤独な人だったんだと今更ながらに思う。

家族からは見放され、弟もいなくなり、先生方からは覚えが悪く、後輩達にも特別思いを馳せていない。孤独だからこそ、止まってしまうんだろう。

ひとりだと、頑張ってもその後に価値が見いだせないから。彼女は感情を表に出さない分わかりにくいけれど、なんだかんだでそれはアキラや初雪と同じこと。

だ、彼女は自己犠牲の精神がいささか強い。初雪はよく、放浪していた自分の境遇を、心の隅で自分がゴーストだからと理由つけて無理やり納得しようとしていた。綾は更にその先の、なら自分はどうなってもいいやという所まで来ている。初雪のようにどこかで助けを欲してなどいない。いや、助けを乞えないから諦めている。第一に彼女の側には誰もいないから。

それは逆に潔いと言えるのかもしれない。むしろ愚直にも助けを希う初雪たちの方が、綾の言うように惨めなのかもしれない。

だけど。だけどね。それはどこまでも独りよがりな精神だと思う。

自分が死ねば示しがつくだろうなんて、根拠薄弱なことを謳って、結局は自分が楽になることしか考えていない。

抑圧された社会の中で、意志主張の弱いものはいささかその考えに帰着するきらいがある。やっぱり理不尽なことでも、納得が欲しいから、悪いのは自分なんだと思い込んで解決したふりをしてしまう。

 

そう、それはもはや自己を焦がし続けるだけの、いわばがんじがらめなまま復讐に身を投げた後……桜BADルートの初雪まんまだ。自分が頑張ることで誰かも救われるという、この作品で言われている根幹的な徳が彼女には見えていない。というより孤独で自己評価が低いせいでそれが見られない。見ようとしない。

 

彼女の問題はまさしくここにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

…とりあえず、なんかメモみたいになってしまったけど、この辺で。

こんな感じで、アップダウン論法のような全体を俯瞰した考察というよりは、ボトムアップ的にセリフやワンシーンを見て全体を組み立てていく、という方針を取っていきたいと思います。

 

綾ルートはとにかく内容が濃いので冗長気味になってしまいますが、次回はこの先のお話から、綾と初雪の深層を探っていきます。

続きます。

 

 

了。

 

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