実写映画『青くて痛くて脆い』 ネタバレなし感想
僕ら、その季節を忘れないまま大人になる
あの日何気なく赴いた本屋で何気なく手に取った書籍『また、同じ夢を見ていた』でその作者を知り、
昨年にはアニメ映画『君の膵臓を食べたい』で一年分の涙を流され、
その影響で昨年購読した書籍『青くて痛くて脆い』が、ついに実写映画化。
わくわくが止まらず、公開初日に見に行ってきました。
原作を拝読したのは今からちょうど一年くらい前だったか。当初から、この苦々しすぎる物語観や小説特有の叙述トリックがすごく好きで、
実写映画化まで長らく空白が空いた今でも印象に残るシーンがちらほらと浮かぶほどに気に入っている作品でした。
そこで今回は、いわゆる”原作ファン”だった身が見に行った実写映画の感想を、だらだらーっと書き連ねていこうかと思います。
ひっさしぶりの投稿です(何年放置してるんだっつの)。
実写映画公式サイト↓
関連図書↓
さて、本作『青くて痛くて脆い』は、キミスイ同様ファンタジー要素のない順当な学園モノに分類されるわけですが、タイトルやらあらすじやら宣伝やらでなんとなく察しての通りの、とにかく苦々しい人間ドラマが売りの作品。
この苦々しさをもっと噛み砕いて説明すれば、
誰しもが心の奥にしまい込んでいるだろう人間関係の中での深い傷や痛みを、容赦なく浮き彫りにしては突いてくる、えぐい苦々しさである。
この作風も相まって万人にお勧めできる作品とは言えないけれど、
過去に負ったその傷や痛みが深く、けれど表に出したくなくて心の奥に押し込め続け…今はなんともなかったかのように素知らぬ顔で生きている、そんな人ほど思わず目をそらしたくなるくらいに共感できてしまうのではないかと思う。
キミスイで感じたドキドキ感とはまた別の、イヤーなドキドキ感に襲われる作品である。
作中ではミスリード、叙述トリックと呼ばれる騙し術がある(小説は特にそれが顕著)ものの、それらはストーリーの面白さを引き立たせるためにあるだけで、話の内容自体はいたってシンプル。
難しくて理解できない、なんてことはないので誰でも気軽に見られる作品ではある。
しかしストーリーがシンプルで、話が簡単に理解できてしまうからこそ、物語の苦々しさや作品のおもーいテーマもハッキリと伝わってしまう。
主人公の痛みも、傷も。ヒロインの痛みも、傷も。ハッキリと、伝わってしまう。
そう…とてもハッキリと。
この辺のえぐさは、もはや物語というか一種のドキュメントともいえるくらいだ。
タイトルの「青くて痛くて脆い」も、このあたりから来ている。
作中で明示こそないものの、何が青くて何が痛いのか、何が脆いのかが、読んだ後によくわかることだろう。
そしてそれを理解した時、その言葉がそのままタイトルになっていることの素晴らしさも理解できるだろう。
特に実写映画では書籍以上に、このタイトルの意味を表面上に押し出していたようにも見えた。
結構序盤から「青い」「痛い」という単語がわかりやすく出てきており、それが拍車をかけて醸し出す空気を重々しくしている。
そしてこの重々しい空気は、映画だとまた度を越えて伝わってくる。
物語の生々しさやリアルさを、薄暗い画質や小刻みに揺れるカメラワークでこれでもかというほどに演出しており、それがまた輪をかけてストーリーの面白さを引き立たせる。
ああいうのは映画にしかできない演出だよねぇ…と切に思う。ほんと、すごいです(こなみ)。
月並みながら簡潔に本作の感想を述べてみたが、最終的な判断は自分で見て下した方が良い。
つべこべいわず見に行って傷ついて来い。という感じである。
しかしその上で、
では原作を読んだ後に映画を見に行った方がいいのか?という問いに答えると、
それはNOであると私は回答する。
「青くて痛くて脆い」の感想はここまで。
これ以降は、上述の問いでNOと答えた理由を長々と書き連ねる。
どうでもいいという人は回れ右。
↓キミスイ感想記事
本題である実写映画の感想。
結論を言えば、面白い映画だったが2回以上見たいとは思わない。というのが私の率直な感想になる。
批判がしたいわけではない。私は別に批評家でもなんでもないので。
映画自体は普通に面白かったし、金を叩いて映画館で見たことに後悔はまったくしていない。人に勧められるか…と聞かれれば前述の通り人によると答えるが、普遍的には見る価値は十分にある作品だと思う。
ただ、個人的には2回以上見たいと思うほど印象深い映画ではなかった。
もっと言えば、私が書籍を読んだ当初以上の情動が、映画にはほとんどなかった。という話だ。
その要因を紐解いていくと、すべての要因は原作小説と実写映画との雰囲気の相違にあるのだと思っている。
とある作品をお気に召すとき、当然ながらその作品内で好きなシーンというものの一つや二つは出てくるものだろう。
たった一回しか読んでいない、見ていないにも関わらず、そのシーンが頭から離れない。
その印象の強さが積もりに積もりながら物語のゴールにまでたどりつくことで、はじめてこの作品が好きだという率直な感想に至るわけだ。
逆に言えば、その作品に対する”好き”は、印象に残ったそれらのシーンや、そのシーンが描いていた雰囲気へ好みから来ているのだとも言える。
同じ作品を好む人が二人といても、それぞれが好んだシーンと雰囲気が違えば、作品に対する好きの形も変わる。
私もこの「青くて痛くて脆い」の中で、読破してから一年以上の空白があって尚、記憶に残っているシーンはいくつもあり、
それらのシーンこそがこの「青くて痛くて脆い」の魅力を最大限に表しているのだと私は信じている。
要するに、だ。
私はこの作品に対し、気に入った所以としての”強いこだわり”を抱いていることになる。
ツッコんだ話をすれば、作品に対する”強いこだわり”こそが、その作品を好きでいつづけるための心持ちなんじゃないかとも思うが…まあそこは別のとこで話すとして。
悪く言えばそれは固執に他ならない。が、その作品が好きだと主張する際にはいつだって固執が入り混じることは避けられない。
では。
その”こだわり”のシーンが他者によって改変され、等閑視された場合。
その作品を、果たして”好き”と言い続けられるのだろうか?
書籍の「青くて痛くて脆い」で好きになったこだわりのシーンが、
実写映画の「青くて痛くて脆い」で深く描かれなかった場合。
その実写映画を”好き”だと言い張れるのだろうか?
私が感じた原作と実写との雰囲気の相違というのは、つまるところそういう部分である。
書籍を映画化する以上、いや、コンテンツを別のコンテンツへと移植する以上、
商業的にも物理的にも、一から十まで元と同じにするわけにもいかない。やはり改変というのはつきものになってしまう。
しかし改変されたものはたとえ同じタイトルを謳っていても細部の雰囲気が異なるために、巨視的に見ればまったくの別作品に見えてしまうケースだって少なくはない。
私はそれとまったく同じことを、この実写映画で感じてしまった。
私が感じていた「青くて痛くて脆い」の魅力が、映画化により少なからず薄れていたのである。
もちろん全部が全部そうではないし、映画化することで新たに得られた魅力だってある。特に後半の盛り上がり具合は、書籍とはまた別の良さがあり、展開を知っている身でも十分な興奮を得られたほどだ。
私はそういった相違も楽しむこともできたから、結果的に「映画も面白かった」という感想に至ることができた。
が、少なくとも書籍とまるっきり同様の目線で見ることはできないくらいには、映画が改変されている事実はゆるぎない。
具体的に言えば原作では登場しない人物が出てきたり、原作にはないシーンがあったり……まあそのあたりは別にいいのだが、
原作にあったシーンをそのまま再現しているにもかかわらず、そのシーンに登場する人物のその時の感情が原作と大きく違っていたりもする。
原作では泣いている場面で、映画では泣いていない…とかそういうのね。
その差ってのは些細なようで、実はものすごく大きい。大きすぎる。
原作への、特にそのシーンへの好みが強ければ強いほどに、溝は大きく、食らう肩透かしは半端ではない。
一度「え?」ってなってしまえば、映画を見る目は疑念でいっぱいとなり、もう素直な目で眺めることはできない。
ただ何度も言うように、これは批判ではない。
映画は映画でよい部分はたくさんあった。心を揺さぶられたり、心臓がずきずききたり、思わず握りこぶしを作ってしまうくらいに感情が暴走するシーンもあった。
映画は映画で、また別の魅力を築いていた…と言ったら伝わるか。
だから、ひとえにこの実写映画化が”改悪”とは言えない。
ただ。ただ。
その実写映画化で新たに生まれた魅力と、書籍の購読で当初得た感動とを天秤にかけると、映画の魅力はやや弱く、
結果として私は原作を読んだ当初以上の情動を映画で得ることはできなかった。
ゆえにわざわざ2回以上も見に行くほどのモチベーションも湧かないし、かといって見に行ったことを後悔するまでもない。
よくも悪くもフツーの映画だった、で終わってしまう。
これが感想のすべてである。
「青くて痛くて脆い」のテーマ・ストーリーは、大まかには書籍も映画化も変わらないし、得られる読後感も巨視的に見れば大きな差はない。
この作品の良さを素直に味わいたいのであれば、映画から入ったって全然問題ないし、なんなら映画を見るつもりで先に書籍を読んでしまうと、その感想がかえって邪魔になる懸念の方が大きい。
書籍を読んでから映画に行った方がいいのか?という問いにNOと回答したのはこのため。
だからこそ私がお勧めするのは、極力プレーンな状態で映画を見ることである。
そうして後悔しない分には、実写映画「青くて痛くて脆い」は面白い作品だと主張し、本記事の締めとします。
了。
現在は同作者の著書「よるのばけもの」を読んでおります。
購入したのは昨年なのに、1ページも開かないまま棚の奥に埋まっちゃってた…
↓同著者の最新作?