あなたにとっての卒業とは? 『はつゆきさくら』レビュー&考察の前説
そういえば最近はエロゲやってないなーって思って自分のPCのデスクトップを眺めてたら、最後にちゃんとコンプした作品は9月にプレイしたやつで、もうここ2か月くらいはエロゲレス状態だったことに気づいた。
いや、プレイ途中のものはあるんだけど…うーん、プレイする気にならないなぁ…って感じがずっと続いている。
やばいよね、これは。
と思ったので、だいすきな作品を語ることでエロゲ熱を再発させることにしました。
題材は、これまで私が一番深く考察してきた愛すべき作品『はつゆきさくら』。
(あ、Vita版あったんだ…)
知っている人は知っている不朽の名作『はつゆきさくら』。
これは私のエロゲデビュー作でもあり、これまでで一番深く、長く考察を繰り広げてきた作品でもあります。
Wordにね、もう長々と書き連ねているんです。2年くらいかけて、10万字くらい。
その考察をお伝えしていきたいなと思ったのですが、書いたものをそのまま載っけるにはあまりに長文なので、やるとしたらルートごとに区切って記事にしていこうかと考えています。
今日はその序論として、まずは『はつゆきさくら』のレビューを簡潔に、そしてこれから考察していく内容の提示をしていきたいと思います。
*レビューと言いましたが、若干のネタバレが入ります。
物語の核心をつく内容は記していませんが、物語の”方針”を語るくらいのことはしちゃっていますので、あしからず。
・『はつゆきさくら』とは
2012年2月24日にSAGA PLANETSより発売された、新島夕氏単独ライトの四季シリーズ最終作(四季シリーズというが、別に各シリーズにつながりは一切ない)。
発表された当時の、fripSideの歌をバックに流れる2ndOPがなんとも言えない異質さを醸し出しており、一躍話題を呼びました。
冬をテーマに、降り積もる雪のなか葛藤や悩みをかかえて成長していく少年少女たちの成長を描いた人間ドラマ作品で、内容としてはいたってシンプル。
進学校では珍しい不良の主人公「河野初雪」は、ある冬の夜、真っ白なドレスを身にまとった謎の少女「玉樹桜」と出会い、なんやかんやあって学園生活をともにすることになってしまう。
それが引き金となって河野初雪の交流の輪はどんどんと広まっていくが、実はその町にはゴーストと呼ばれるものがいて―――
――卒業を控えた冬の季節に、少年少女たちは様々なゴーストと向き合いながら、卒業を目指して苦難を乗り越えていく。
といった内容の、青春学園風なストーリー。
(あらすじを書くのは苦手…)
個別ルートの選択も非常に簡単で、公式推薦の攻略順はあれど、基本的にはプレイヤーの自由にヒロインを選んで攻略していくことができます。
シナリオ構成も、prologue→個別ルート→ラストエピソードという、オーソドックスな形式。
もちろんながらキャラが可愛いとか、そういった萌的な面白い要素も多数ありますが、さすがにすべてを紹介するにはあまりに長いので、私が思うこの作品のなによりの売りとなる部分を紹介すると、それは丁寧に描かれた少年少女たちの人間ドラマにあると考えています。
そして、その表現が著しく上手く、プレイヤーの琴線に触れさせるだけの演出が丁寧に練られている。
これこそが、『はつゆきさくら』の一番の売りだと考えます。
一個一個見ていきましょう。
・エロゲにしかできない丁寧なシナリオ構成
エロゲやノベルゲームの個別ルートっていったい何のためにあるのだろう?と考えたことはないだろうか。
私はしょっちゅう考える。
”そのヒロインを恋人にしたイチャイチャ話を見たい”と言う理由でルートがほしいなら、True√とかラストエピソードなんていらないはず。ゆずソフトなんか特にそういう方針をとっているようにね。
最後に一番に注目すべき人物が中心に描かれるラストエピソードなるものがあるということは、そこにいきつくまでの個別ルートは”前座”でしかない、ということになるわけです。
そう、あくまでラストを引き立たせるための、シナリオ論で言えば”ダレ場”に当たる部分だ。
このダレ場にあたる個別ルートで描かれていることがラストに活きるから、ラストエピソードはクライマックスとして映え、作品全体をかたちづくることが出来る。
その前座である個別ルートをどう活かし、ラストにつなげていくかというのは作品やメーカーによって方針は違うので、一概にこれ!といえる答えはありません。
しかし中でも『はつゆきさくら』はひとつひとつのルートに一切の妥協がない、どれも物語を形成する上で重要ななにかがあまねく描かれているシナリオ構成になっている。
はつゆきさくらのシナリオが最終的にゴールとするものは『卒業』。
3年生の主人公をはじめ、後輩のヒロインたちにも、それぞれの卒業というものがあり、どの話でもそれを軸に描かれている。
当たり前な話ですが、物語の顔は主人公であり、主人公がそのゴールにたどりつくことこそがクライマックスにあたるわけです。
つまり、主人公である河野初雪の卒業までを描いた話というのが、はつゆきさくらの具体的なシナリオになるわけです(ここがネタバレの限界なのでこれ以上は説明しません)。
では、それを最後に描くために、個別ルートの立ち位置はどのようになっているか。
『はつゆきさくら』の個別ルートは、主人公を理解するための話という目的で位置づけられています。
河野初雪の抱える問題とは?
河野初雪の言う”卒業”とは?
河野初雪に必要なものは?
といったような、ラストエピソードで伏線と成り得るこれらの要素を、個別ルートにちりばめたような構成になっているのです。
主人公が接するヒロインが違えば、主人公が表に出す態度や考えも変わる。
ヒロインが抱える問題によって、主人公の出方も変わってくる。
接していくヒロインによって、主人公の考え方の変化の方向性が違ってくる。
そうして描かれていく個別ルートのシナリオから、いろいろと比較を施して、主人公がどういった存在なのかを理解していくことが、全体を俯瞰しての、個別ルートの目的だと私は考えています。
こう言うとヒロイン<主人公の作品なの?と思われるかもですが、まあある意味正しいけど、ちゃんと個別ルートではヒロインが主役になって、せいいっぱい喘いだり萌を引き出したりしてくれているのでその辺は大丈夫です。
そもそも各個別ルートにおける主人公を知るには、相対的にヒロインへの理解も必要なので、決してヒロインがなおざりにされているということはありません。
(シロクマが不遇…という声も聴きますが、個人的にシロクマルートはシナリオ上重大なものが描かれている大切なルートだと思ってます)
こういった、ヒロインとの逢瀬をかさねて主人公を理解していくという構成は、エロゲにしかできないものだと思うんですよ。
ゲームシステム的なやり直しが効くからね、エロゲは。
同じ時間軸で複数のヒロインと接触できるわけだから、これほど丁寧に人間が描けるコンテンツはないよ。
『はつゆきさくら』は、その利点を最大限に活かしたシナリオ構成であると、私は太鼓判を押します。
・絶妙な演出の強さ
演出…といって思いつくのはCGとか、BGMとか、あとは簡易的なムービーだろうか。
それらをどう織り交ぜるか。それが演出というものですよね。
でも一概に演出といったって、シナリオに則したものとそうでないものとがあると思う。
アホらしいほど極端な話、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』のようなファンタジーものの陽気な喜劇で使われるような音楽が、『マクベス』のような時代シリアス系の悲劇に合うわけがないでしょう。
誰にだってわかることだけど、ようはそれがシナリオと音楽との相性というもの。
当然、シナリオとCGとの間にもそのような相性の善し悪しはあると思います。
シナリオ論では一番に目を見張るべきところに当たることだと思っていますが、やはりテンポというのは大事な話。
リズム的なテンポもそうだが、精神的なテンポもそれにあたる。
精神的なテンポというのは要するに”刺激”ですね。極端な話、背景や立ち絵の変化がないシーンが延々と続くのは飽きるでしょう。
視覚的な刺激を適度に与えられることで、人は飽きることなく物語に目を向けられるわけですが、これがまたとんでもなく難しい話。
慢性を恐れ、ムービーやCGの変化を数秒ごとに一回はさむと、それは逆にテンポが悪くてダメになる。
だからって何の変化もない場面を見せられても刺激がなくてダメになる。
その案配が難しい中で『はつゆきさくら』はどれだけできているのかというと、少なくとも私は心地よいテンポだと感じました。
ちょっとわかりづらいけど、この作品、たまにこうやって背景に雪が降っているんです。
静止じゃなく、ゆらゆらと動いたまま、ですよ。
なにげない演出だけど、私はこれだけでも十分な演出効果だと思う。
『はつゆきさくら』は冬を舞台にしているだけあって、”雪”というものに対して物語上の意味を持たせている。
別にそれを深くまで理解する必要はないけれど、たとえばシリアスなシーンでこの雪が画面をゆらゆらと揺らぎ落ちているだけで、見る印象は大きく変わると思う。
こんなちっぽけな変化で?と思うかもしれないが、ちっぽけだからこそいいんです。
確かにこの雪の演出はちっぽけなもので、ムービーやCGほどの強い刺激は与えられないけれど、逆に言えばそれは文章を邪魔しない演出なわけです。
インパクトとして大きな刺激がほしいならムービーやCGを使えばいいけれど、文章をメインとしたいときに、この手のちっぽけな演出はとにかく映える。
もちろんいざというときにはCGを使ってインパクトを出してきますよ。CG、結構多いですし。
このように、この作品はリーディングを邪魔しない、なおかつ視覚的にも刺激のある演出効果を丁寧に仕込んでいるのです。
音楽の話もします?
これはもう個々人の感性によるけど、この作品のBGMはハイレベルだと個人的に思います。
むしろ文章を読むのを邪魔してくるくらい音楽の盛り上がりが激しかったりもする。そこがネックになるかもだけど、私は音楽もエロゲの一部と考えているのでむしろウェルカムって感じ。
人間は視覚よりも聴覚的刺激の方が脳に残りやすいので、音楽が盛り上がってくれればくれるだけ、その時のシーンを想起しやすくなり、結果としてシーンごと印象に残る。
そういう絶妙な刺激の強さも、この作品のいいところでもありますね。
・キャラクターの濃さ
これについてはネタバレなしで語るのがきついのですが、前述したこととよく似た話。
さきに、この作品の個別ルートは主人公を理解するために置かれているものであり、それを引きたてるためにヒロインを理解する、みたいな話をしましたが、つまりはそういうこと。
あまり前のめりになる必要もないけど、理解しようと心掛けなければ簡単に理解できないようなキャラクターが多いです。
逆にいえばそれはキャラクター性が非常に濃いということ。
人間味があるということにもつながるでしょうね。
でも簡単に理解できなくて当たり前。
構造上、自分と同じ考え方の人ばかりじゃないんだもの。
だからこそ、自分と違う人間の考えだからこそ理解する価値がある。
たとえばこの子。
はつゆきさくらに限らず全作品で私がトップクラスに好きなキャラなのですが、彼女のルートをもう何周したかわかりません。
大学の試験勉強のときも、BGMとして彼女のルートを垂れ流してたくらいですし(テストは全然問題なかったです)。
でもそれくらいして、やっとこの子が言っている些細なセリフの意味に気づけるようになりました(まあ、単に私の理解力不足な点もありますが)。
そうして改めて思うのは、この子はとても人間的に弱くて、でも強い子なんだな、ということ。
個別の考察の方でいずれ書いていきますが、そんな筆舌に尽くしがたい人間的な弱さと強さを孕んでいるキャラなのです。
そして彼女のその人間性も、主人公の理解に大きく関わっている、というのも大きなポイント。
ひとりひとりのキャラクターに人間味の溢れた濃さがあり、それらが主人公の人間性の理解にも直結していく。
だからこの作品の中で無駄なシーンってのはほとんどなくて、よくお弁当イベントとかただのイチャイチャデートとか萌要素一点のシーンが散見される作品がある中で、この作品のイチャイチャイベントにはシナリオ上重要な隠された伏線みたいなものがあったりする。
それに気づいたとき「メタいなぁ」とか「これ、こういう意味だったのかw」とか、また違った楽しみを得ることもできるのです。
やっぱりひとりひとりのキャラクターの人間的な濃さというのは大事なもので、より濃密なシナリオを展開するためにも必要なものなのだな、と感じます。
『はつゆきさくら』は、そう言った部分も大事にされているんですね。
他、魅力という魅力は枚挙にいとまがないくらいですが、今日はここまで。
以後、物語考察としてはつゆきさくらを語っていくつもりでいますが、基本的に語ることは、前述したこの物語のストーリーにのっとり、ヒロインおよび河野初雪を理解していく考察を繰り広げていきたいと思います。
繰り広げていきたい…というかすでに繰り広げているんですけどね。個人で。
とにかく『はつゆきさくら』は万人受けする不朽の名作ですので、多くの人にやってもらえたらなぁと切に思っております。
了。宣伝は怠らない質。
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